前作からわずか1年1ヶ月のスパンで、濃密な音楽的更新を果たしている2ndアルバムをここに完成させてみせた。タイトルは『telegraph』=電信。どこを見渡しても荒波が立っている時代に彼らKroiは、まるで溺れることなどなく、いや、むしろ自らで新しい波を起こすようにして楽曲を創造し、ステージに上がっている。音楽を軸にカルチャー全体に波及効果を発揮するという当初からの指針も、彼らが発し続けているその電信によって確実に現実の事象へと引き寄せている。初出演となる今夏のフジロックでは、いきなり第2のステージにあたるホワイトステージに立つ。ここまで積み重ねてきたライブで得たタフな筋力が、おもいっきり解放されるに違いない。
『telegraph』には、「Pixie」(国際ファッション専門大学2022年度CM曲)、「Juden」(「ダイハツROCKY e:smart」CMソング)、アルバムのリード曲を担う「熱海」、「Small World」(テレビ東京 ドラマ24『しろめし修行僧』オープニングテーマ曲)、「Correction」(『WOWOWアーバンスポーツ』テーマソング)、「WATAGUMO」など、既発曲やタイアップ曲を含む全13曲が収録されている。アルバムのオープニングを飾る「Drippin’ Desert」から、これまで以上にメンバーの個の色が際立つプレイの集積としてのグルーヴ力でありその構築力の向上をはっきり感じ取ることができる。それはダイナミックに開けていくメロディーの求心力においても、然り。あるいは、M2「Funky GUNSLINGER」は、タイトル通りマカロニウエスタンを想起させるストーリー性に、新鮮かつ刺激的な音の色を付けている。Kroiサウンドの不変的な要であるファンクの向こう側を行くような音楽的なアイデアと手つきが、アルバム前提に通底している。ゆえに絶妙なユーモアもそこかしこに滲んでいる。
そして、その大きな結晶を極めてポップに解放しているのが、リード曲のM6「熱海」だろう。軽快なジャズフュージョン/ジャズファンク的なフィーリングをKroi流のアーバンポップ、あるいはAORに昇華しているこの曲は、MVの内容も含めて最高にチャーミングでキャッチーだ。「熱海」が存在していることでアルバム全体の豊かなバラエティー感を引き立てているし、前後に位置するインストのM6「banana」やまどろむようなサウンドスケープが心地いいM8「Airport」、ラストのM13「WATAGUMO」などが纏っているトリッピーなポップネスをより立体的にしている。
ここからは、この堂々たるバンドミュージックが響き渡る2ndアルバムを作り上げたメンバー5人──内田怜央(Vo.)、長谷部悠生(Gt.)、関将典(Ba)、益田英知(Dr.)、千葉大樹(Key.)の声を届けていこう。
──あらためて、なぜこんなに間断なく曲を生み出し、音楽的な更新を果たせていると思いますか?
内田:デモを作っていても小さなスランプはめちゃめちゃいっぱいあるんです。ただ、自分の中の理想との戦いとぶつかることはたくさんある中でも、とにかく手を動かし続ける。デモを提出して「いいね!」と反応してくれて、それをさらにいい曲に仕上げてくれるメンバーがいる。その流れがあるから、自信を持って曲を世の中に出していけるんだと思いますね。
──それはまさにバンドの醍醐味でもある。
内田:本当にそうですね。絶対に俺一人じゃできないです。そもそも曲を出せないですね。アレンジの際にみんなのフレージングが加わって、歌録りの段階で曲が俺に戻ったときに「このトラックなら、このビートなら絶対にいける」という確信が生まれるんです。さらに、千葉さんがミックスを手がけてくれるという心強さもあるので。それはやっぱりバンドの強みですよね。ただ、ずっと音楽を作り続けてライブするという循環を続けていくのは、それはそれで健康的ではないのかなと思っているところで。しっかりインプットする時間も作りたいですね。みんなでサバゲーに行ったり(笑)、みんなと気軽に音楽を聴きまくるリスニング会みたいなこともやりたい。たとえば「Funky GUNSLINGER」は『ジャンゴ』をはじめ俺が西部劇にハマったことでできた曲でもあって。西部劇でしか聴かないメロディーラインってあるじゃないですか。あれをフラットに取り入れたいと思ったんですよね。俺はこのシリーズがかなり気に入ったのでもうちょっと深堀りしたいですね(笑)。
──長谷部くんは、今作のギターワークにかなり手応えを覚えてるんじゃないですか?
長谷部:そうですね。自分の個性を出すチャンスのある曲が多かったと思うし、「Funky GUNSLINGER」や「熱海」は曲のキャラクター性に沿ってフレージングを考えるのがすごく楽しかったです。1曲目の「Drippin’ Desert」を怜央が最後に書き上げてくれたんですけど、その前に録ったのが「熱海」だったんです。個人的に「熱海」が入ったことでアルバムがより多様になった中で、怜央が「Drippin’ Desert」を作ってくれたことでアルバム全体が引き締まったなって。
──ビートもこれまで以上に多様なアプローチをしている。
益田:前作『LENS』は自分たちのルーツを掘り下げるみたいなところがありましたけど、今作にはこれまで触ってなかったジャンルがいっぱい入ってきて。デモの段階から自分の中の引き出しにはないリズムパターンがあって、そういう新しい発見がかなりありました。 ただ、完成した今、どういうアルバムになったのか正直まだつかめてないんですよね。
──豊富なライブ経験もレコーディングにフィードバックできている実感はありますか?
益田:意外とライブをやっている中ではレコーディングと紐づく感じはそこまでなくて。基本的にずっと怜央のデモありきって作っているので、ライブとは別物としてレコーディングに集中している感覚があります。
──千葉くんはミックスエンジニアとしてもアルバム全体を俯瞰で見ているところがあるのかなと思いますが、手応えとしてどうですか?
千葉:サウンドの方向性としては本当に1曲1曲が本当にバラバラで(笑)。でも、一貫して5人で作り上げているクリエーションなので、どんな曲をやっても芯が通るんですよね。それがKroiの強みだとも思います。あとは、怜央がデモを挙げてくるときは何かのタイアップをきっかけにまとめて送ってくれることが多いんですね。そのときに怜央のモードもわかるし、みんなで「こういう音楽いいよね」とか「こういう曲をやれたいいよね」という会話は常々、次のクリエーションに向けてやっていて。1曲1曲、その時点での怜央のモードであり、バンドとしてやりたいことを実現させてできたアルバムという感触がありますね。
──関くんはどうですか?
関:既発曲の「Juden」、「Pixie」、「Small World」、あとは「Correction」もタイアップのお話をいただいて作った曲なので、この4曲を作ったタイミングではまったくアルバムの全貌は見えてなくて。でも、最終的には不思議なまとまりを持つアルバムになったなと思います。そういう意味でも「Drippin’ Desert」を締め切りギリギリの段階で作れたのも大きかったなと思いますね。
内田:どうしても「Drippin’ Desert」を書きたくて。この曲が方向性のバラバラな各曲をアルバムとしての集合体にする接着剤になると思ったんです。
──「熱海」はどのようにできていったんですか?
内田:「熱海」は、益田さんから「明るい曲が欲しい」というリクエストがあって。よく考えたらKroiには夏の曲がないし、夏の明るい曲を作ろうと思って。そこから俺にとっての夏のイメージは熱海だなと思って(笑)、「熱海」というタイトルを決めた状態でもともとあったデモをブラッシュアップしていったんです。
関:怜央が「明るい曲だったら、ボツにしようと思ってたこういうデモがあるよ」って言っていて。「これはボツにしなくていいでしょ!」ってみんなで止めたんですよ。本当にあのとき止めてよかったです(笑)。
内田;「熱海」の原形となるデモを作ったときに「これは絶対にKroiで出せる曲じゃねぇや」って思って(笑)。
──それはどういう部分で?
内田:俺の中でKroiっぽい曲のボーダーラインみたいなものがあって。でも、今になってそれは思い込みだったなと。結果的にこの曲があることで、ちゃんとしっかりふざけてる感じも出せたし。
関:「熱海」の前までに作った曲たちはけっこう力の入ったものが多かったので。アルバムの先行配信曲は肩の力が抜けた曲がいいねとスタッフが提案してくれて、MVも撮ることになったんです。
──アルバム全体を通して、あらためて怜央くんが書くリリックの核心は、いかに混乱=コンフューズしている脳内で遊びながら音楽表現ができるかというところにあるのかなと思いました。
内田:やっぱり聴く人によって全然違う世界を想像できるか、みたいなことはずっと目指していて。そこにプラスして今回は舞台が砂地みたいなイメージがあったんです。砂地の渇き、みたいな。それは『DUNE/デューン 砂の惑星』を観た影響もあるんですけど。
──そこも映画のルックがインプットになっている。
内田:そうなんです。あの映画の砂漠地帯が広がっている画のカッコよさに惹かれて。それと、俺が曲を作るときは頭の中で水探しが始まる旅みたいなところがあるなと思って。
──クリエイティビティーが枯渇しないために。
内田:うん。曲作りってオアシスを探す旅のようだなと思ったんですよね。そのせめぎ合いの中で物語がどんどん生まれてるなって。渇きがないと自分が作った感覚がしないし、あんまりかわいい曲だと思えないんですよね(笑)。そういう感覚がリリックに反映されてると思います。
──『telegraph』というアルバムタイトルは今回も関くんが冠したんですよね?
関:はい。「telegraph」という言葉は電信であり、モールス信号に直結する意味合いがあって。モールス信号って世界共通的に英語が基本らしくて。つまり、モールス信号を1パターン覚えてしまえば、言語が異なる国とも交信し、コミュニケーションが取れる。それをKroiに置き換えてみたらどうなるんだろう?と考えたときに、音楽を持って世界に発信し、世界中の人とコミュニケーションを取りたいという思いとリンクできるなと思って。あと、今作は西部劇的な曲があったり、ラテン的な曲があったり、怜央がデモの段階からいろんなテイストを入れてくれたことで冒険に出ているニュアンスが生まれているなと思ったんです。1曲目の「Drippin’ Desert」から、1曲ごとにどんどん景色が変わっていく。で、「熱海」まで行ったら、今度は空港に戻ってくるみたいな(笑)。そうやって巡り巡っていく感じがすごくいいなと思ったんですよね。
──音楽の旅という意味では、ここから夏フェスシーズンや本作のリリースを記念したフリーライブを経て来年1月8日のLINE CUBE SHIBUYAまで続くロングツアーが始まります。
関:ここからライブモードにはなるんですけど、とは言いつつも、『telegraph』のレコーディングが終わる前から次のEPを作りたいという話を早速していて(笑)。タイトルとかコンセプトがいろいろ浮かんじゃって。早く制作したいなと思ってるんです。
──さすがすぎる(笑)。
長谷部:コンセプトが先にあってレコーディングをするのは初めてのことなので、それもすごく楽しみですね。
千葉:ツアー先のホテルとかでもレコーディングしたいよね。
内田:ツアーも楽しみだし、ここからさらに遊ぶように音楽を作れたら、と思ってます。
インタビュー&テキスト=三宅正一